第一内科について

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ロサンゼルスより

平成13年卒 江里口 芳裕

私は、2013年4月より、カリフォルニア州ロサンゼルスにあるKeck School of Medicine of University of Southern CaliforniaのOuellette labに留学しています。西海岸にあるロサンゼルスは、冬は暖かく、夏でもカラッとしており、とても過しやすい気候です。そして、何より春先に花粉が飛散しないことは、私にとって天国の様です。更には、近年、私にとって呼吸器症状、発熱と体調不良を誘発していた黄砂に悩まされる事もありません。

こちら西海岸の多くの人達は、ともすれば流行に無頓着な様にも映りますが、流行りに流されず、良い物は良いとする風潮があり、日本との違いを感じます。こちらの人達は、多文化を尊重し合い、自分という確固たるものを持っているので、私には彼らの生き方が格好良く、自分もそうありたいと常々思わされます。この様な自分の人生観を見つめ直す機会を、肌で感じる事ができたけでも留学して良かったなと思います。あとは、英語力が少し上達してくれれば・・・英語力がネイティブの人と同等であれば、自分はこの程度のものではないという妄想を大いに膨らまし留学して1年経ちますが、未だ2、3割しか聞き取れませんし、伝える事は更に出来ません。現地の小学校に通う自分の娘を羨みながら地道に努力するしか無いと感じています。

話が脱線し、研究に関する事から離れてしまいました。話を戻しますと、現在の研究室はボスとポスドクである私の二人所帯と決して大きくありませんが、その分、とてもあたたかな職場です。ボスのAndyは、温厚を絵に描いた様な人で、研究以外の事も気さくでありながら親身に相談にのってくれます。Andyは、腸管免疫で重要な働きをする、小腸のPaneth細胞が分泌する抗菌ペプチド研究の第一人者です。60を過ぎていますが、頭脳は明晰で、Paneth細胞に関しては解明されている事と解明されていない事を、はっきりと把握しておりディスカッションする度に得るものがあります。そして、何より私の好きな様に実験をさせてくれ、適度に助言をしてくれるところが私のスタイルにぴったりで、とても居心地良く実験を遂行できます。

私の日本での研究についてですが、私は腸内細菌叢に興味があり、九大で下野先生の感染症研究室に所属していました。第1内科はとても研究室間の垣根が低いため、遺伝子細胞療法部の豊嶋先生(現北海道大学血液内科教授)との共同研究の機会を得て、同種骨髄移植後に発症するGraft-versus-host disease(GVHD)でPaneth細胞が消失する事を発見しました。感染症領域と造血幹細胞移植領域の研究がどこで結びつくのかというと、概略は以下の通りです。まず、移植治療に伴う腸管GVHD発症により、Paneth細胞の産生する病原菌に選択的抗菌活性のある抗菌ペプチド(αディフェンシン)が減少します。すると病原菌の異常増殖した病的な腸内細菌叢に変移し、更には、αディフェンシン減少による防御機構の破綻した腸管より異常増殖した病原菌が侵入することにより全身性感染症を引き起こすというものです。Paneth細胞は腸管防御機構として重要なだけでなく、ダメージを受けた時の腸管修復に欠かせない腸管上皮幹細胞のニッシェという重要な役割も担っており、近年では世界的にも非常に注目を集めています。また、寄生虫であるToxoplasma gondii感染による免疫賦活状態でもPaneth細胞が一過性に消失する事が報告されており(Nature Immunology 2012)、GVHDの様な移植免疫に限らず、自己の賦活化された免疫もPaneth細胞に影響を及ぼすと思われます。私は、このPaneth細胞に魅せられ、免疫賦活時にPaneth細胞が消失するメカニズムを解明したく、現研究室に留学する事にしました。

現在の研究は、マウスの腸管上皮から作成したorganoid(mini-gut)という腸管上皮組織の培養系を用いて、免疫細胞がPaneth細胞に及ぼす影響を解析しています。どの様にPaneth細胞が免疫系から影響を受けるかの解明は、全くの新しい分野であり、手探り状態です。しかし、その分、我々の様な小さな研究室にもアイデア勝負というチャンスがあり、とてもエキサイティングな分野です。

留学中は、臨床から完全に離れますので、学生の頃は全く行わなかった、免疫学の教科書の通読や、分子生物学の勉強をすることができるため、自分にとっては日々、新しい発見がそこかしこにあり、とても貴重な時間を過ごしています。日本人と異なる西欧的なの思考形態を学ぶ上でも、留学は貴重な体験となります。せっかく良い研究を行っても、こちらの人達が、どの様な思考プロセスで査読するのか知らない事は、論文投稿時に大きな足枷となるからです。また、こちらの人達からは、家族との過ごし方についても学ぶ事が沢山あります。周囲には大自然が豊富にあり、日本からの短期旅行では味わえないことだらけです。この短い文章では十分に留学の良さを書ききれませんが、出来る限り多くの皆さんに、ぜひ留学をチャレンジして頂きたいと思います。