第一内科について

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現教授挨拶

「九州大学医学部第一内科」

九州大学医学部第一内科は、開講112年を迎える全国でも有数の歴史を持つ総合内科学教室で、これまで在籍した教室員は約1,800名を数えています。幅広い専門分野において数多くの教授を輩出し、我が国の医療の発展に貢献してきました。特に初代・第二代教授、稲田・井戸によるワイル氏病病原体発見の報告は、ノーベル賞候補ともなりました。井戸教授の急逝により受賞は叶いませんでしたが、以来、この誇りを胸に、臨床への還元を目指した世界レベルの研究と臨床力を持った内科医の養成に、一貫して力を注いでいます。

内科医は、各々の選んだ専門領域に精通することが必須です。その専門領域に更に精通するためには、翻って人体のみならず人間を総合的に見る力が必要です。このような統合された力を養うには、教育環境のみならず、人生を楽しむ力やその興味を維持する力、すなわち本人の好奇心と使命感が何よりも大事です。

第一内科には、「自分のやりたいことがやれる自由度の高さ、そしてそれを支える歴史と伝統」が息づいています。この自由闊達な気風から、臨床医学の権威、基礎医学の著名な研究者、また国の政治に関わる人材に至るまで、数多くの俊才を各界、各分野に輩出してきました。我々の根幹にある思想は、稲田教授ご自身の言葉による「Freiheit」、すなわち「自由」の尊重です。

個性は組織の確固たる基礎体力の上に「自由」を得て大きく成長する、そしてそれが組織の発展を支えるということを、私達は知っています。私達の究極の使命は、人類に福音をもたらす医療を開発・提供すること、そのために、臨床力・研究力に加え人間力を持つ、世界のリーダーとして活躍できる医師を育てることにあります。九州大学第一内科は、これらの目的を達成するため、古きを温めながら常に前進しています。

医局は何のために存在するのか

今年1月より、原田実根教授の後任を務めさせて頂くことになりました。赴任して1年に届こうとしている今、この伝統ある、逸材あふれる九州大学第一内科を継承、発展させるという責任の重さを痛感しております。久しぶりに戻った医局は、昔と変わらず第一内科独特の気風と活気にあふれています。この空気の中で、個人の創造性を伸ばす医局のあり方を継承していくこと、これをまず念頭に置いています。

これまで第一内科には、医局としての力と先輩方の人柄に敬意を払い、多くの若い医師が自然と集まってきました。今、大きく異なるのは、臨床研修制度の変化に伴い、大学における臨床と研究の現場を見た経験がない若い医師が増えていることです。このような医師と話す機会をできるだけ作るよう努めていますが、「医局は何のためにあるのか」という質問を受けることがしばしばあります。第一内科の素晴らしさを何としても伝えたいと、心から思う瞬間です。

第一内科は何のために存在するのでしょうか。臨床力を高め、研究成果を発信し、医療を通じて社会に貢献すること、とまとめるのは簡単です。重要なのは、その過程にどれだけ我々自身の「夢」を織り込める懐の奥深さがあるかだと思います。医師として医学者として描く将来、家族の幸福、各々の人生における理想を追求する中で、各人が第一内科という共同体に属する意義と喜びを感じ続けられること、が必要なのでしょう。

いわゆる総合内科が全国から消滅している状況下で、第一内科は、今、そのあり方を問われています。第一内科の各研究室は、各専門内科教室と常に比較されます。各研究室は、総合内科教室の中にあってこその優位性を、今まで以上に明確な形で示さなければなりません。第一内科が守り育ててきた全人的医療の姿勢、「患者の人、全身を診て、臓器毎の理解を有機的に繋ぐ」という哲学を伝えていく努力をすることが重要だと思います。この点に関して、同門の諸先生方のお力添えを、特にお願いしたいと思います。

一方で、この臨床における哲学こそが、第一内科を一流の研究者をも輩出する希有な臨床教室にならしめてきたのであろうと考えます。「臨床研究は、投網を打つように、狙いを定め、広く、深く行うべきである」という操教授の言葉を先輩から伺ったことがあります。全人的臨床活動を通じて、「臨床家にしかできない科学的発見に繋ぐ」ことこそ、九州大学第一内科の本分です。初代稲田教授の偉業に始まり100年以上も守り続けてきた誇りを胸に、さらに活力を持って前進しなければなりません。

それでは、組織の活力とは何処から来るのでしょうか。第一内科の伝統の根源は「Freiheit」にある、と昔から言われます。可能性や夢を求める自由です。「若さ」と置き換えてもいいでしょう。「若さ」とは、年齢ではなく、結果を知ることが叶わぬ未来に向かって、挑戦的に生きていける力です。歳を重ねると自然に物事を体系的に捉える能力を得ます。一方で、単に「難しい」ことを、「不可能」とすり替えてしまう消極性を生みます。第一内科を、それを工夫と粘りで「可能」なことに変えてしまう若い活力で満たすことが必要です。

私自身の更なる挑戦も始まったばかりです。これまで諸先輩方に暖かく見守られ、ずいぶんと自由を許して頂き、苦しくも楽しい経験をさせて頂きました。だからこそ、挑戦的な若い人を真っ直ぐに伸ばしていける環境と度量を保ち続けることが、第一内科にとって最も必要なことだと思います。「Impossible is Nothing—不可能なんて(やってみれば)なんてことない」。この言葉のように挑戦を続ける「若い」医局員に精一杯のサポートをすることで、枠を越えた変革を呼び込みたいと思います。

現在、医療環境も研究環境も、大きく変化し続けており、本体である九州大学のあり方にも変革の波が押し寄せています。これをむしろ呼び水として、「臨床力と研究力の第一内科」の基礎体力をさらに高め、本教室から日本に留まらず世界のリーダーたる人物を輩出することこそが、私たちの目指すべき未来です。

これらの大きな目標は、諸先輩方、後輩の皆さん、すべての同門の先生方のお力添えなしには、到底叶うことではありません。第一内科がその本分を忘れずに益々発展できるよう、皆様、何卒宜しくご協力をお願い申し上げます。


九州大学第一内科 教授 赤司 浩一