第一内科について

海外便り

平成9年卒 沼田 晃彦

私は、シンガポール共和国にあるがん科学研究所(Cancer Science Institute of Singapore)に、2010年6月1日から留学しています。マレー半島の先端、北緯1度に位置する淡路島ほどの大きさしかないこの国は、独立して45年間で金融、経済立国に成長しました。人口は約500万人、民族構成は中華系が7割を超え、マレー系、インド系と続きます。これに含まれない私のような外国人滞在者が相当数いることから、街はアジアの人種のるつぼとなっています。公用語は英語、マレー語、タミル語、マンダリンの4カ国語、公共の標識は4種の言語で表記されます。シンガポール人のほとんどが英語を話しますが、それぞれの民族の言葉を背景とした訛りの強い英語で、私には英語を話していることさえわからないこともよくあります。気候は、まさに熱帯雨林気候、晴れいきなり豪雨の毎日です。生活費は、狭い国土のため家賃は高額ですが、公共交通機関、食費は安く、日本とほぼ同じになります。日本との時差は1時間、日本の食、衣類、書籍は入手し易く、多くの日本人が在住しています。

この国はアジアの医学研究の拠点造りを進めています。そんな中、私の所属する研究所は、国西部の海岸に近い丘陵地にある国立シンガポール大学(National University of Singapore)のキャンパスに、3年前に設立されました。様々な国からの研究者が主宰するラボがあり、国際色は豊かです。ほぼ毎週のように海外からの講演者を招いたセミナー、ラボ合同のカンファレンスなどが開かれています。私の所属するラボは、アメリカ人のボス(Daniel Tenen所長)を筆頭に、インド、マレーシア、シンガポール、韓国、イギリス、中国などから15名で構成され、ネイティブの英語を聞くことはほとんどありません。私は、白血病幹細胞を標的とした治療法の開発というテーマのもと、想像した以上に早く研究を開始することができました。

7月1日から、共同研究のためにアメリカ合衆国東部のボストン市にあるBeth Israel Deaconess Medical Centerに移りました。Harvard Medical School、Dana Farber Cancer Instituteなど大学、研究機関、病院が並ぶメディカルエリアにあります。所属したラボは20名を超え、イタリア、ドイツ、中国、アメリカ、スペイン、インドなどからの出身者で構成されています。ここでもなかなかネイティブの英語を聞く機会はないのですが、でもそれがEnglishなのでしょう。ラボ合同のミーティングなどでは、すぐそばにいる医師、研究者などの最新の研究を目の当たりにすることができ、とても大きな刺激です。ラボ内のミーティングは週に1度、ボスはシンガポールとボストンを2週に1度往復しており、遠くにいてもインターネットを介して参加してくれます。個人のミーティングも2週に1度、テクニシャンも含め全員にそれぞれ30分以上かけ行われます。朝から始まるこのミーティング、新米の私は午後最後になりますが、シンガポールは早朝にあたり、彼のパワフルな仕事ぶりはラボのメンバーの尊敬するところでもあります。

私は、10月から再びシンガポールに戻り研究を続けています。見知らぬ土地、人の中での研究生活を支えてくれているのは、第一内科からもらった、研究生時代の小さな喜び、そして医師として味わった大きな悔しさの両輪です。この貴重な留学経験を、日本の医療現場に還元できるよう努力していくつもりです。