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腫瘍グループ

臨床研究

当研究室では、新規標準治療の開発を目指し、全国組織の臨床試験グループ(WJOG, JCOG, JSCCRなど)のみならず、広く九州を中心に活躍している腫瘍内科医と組織した臨床試験グループ(KMOG, FMOG)で多数の臨床試験を行っています。また、自主臨床試験、医師主導型治験の実施や企業治験の参加にも積極的に取り組んでいます。

また以下のような、がん患者に関連する様々なテーマを研究することで、安全で最適化された治療法の確立を目指しています。

  1. がん患者と心血管合併症に関する研究
  2. 胃がんや大腸がんの治療最適化を目指した研究
  3. 腫瘍免疫解明を目指した研究
  4. 希少がん(肉腫、原発不明がん、小腸がんなど)の研究
  5. がん患者の精神的ケアに関する研究
  6. 制吐薬など支持療法についての研究
  7. がん患者と栄養状態に関する研究

最新のものについては、こちらのリンクも御参照下さい。

参考文献(当グループが主体の臨床研究、2018年4月現在から過去5年分)
  1. Irinotecan monotherapy as third-line or later treatment in advanced gastric cancer.
    Gastric Cancer. 2017 in press.
  2. Early tumor shrinkage indicates a favorable response to bevacizumab-based first-line chemotherapy for metastatic colorectal cancer.
    Anticancer Drugs. 2017; 28:1166-1173,
  3. Suggestion of added value by bevacizumab to chemotherapy in patients with unresectable or recurrent small bowel cancer.
    Cancer Chemother Pharmacol. 2017;80:333-342.
  4. Predictive value of the modified Glasgow Prognostic Score for the therapeutic effects of molecular-targeted drugs on advanced renal cell carcinoma.
    Mol Clin Oncol. 2017;6:669-675.
  5. Efficacy and Safety Analysis of Oxaliplatin-based Chemotherapy for Advanced Gastric Cancer.
    Anticancer Res. 2017;37:2663-26716.
  6. Weight Loss During Initial Chemotherapy Predicts Survival in Patients With Advanced Gastric Cancer.
    Nutr Cancer. 2017;69:408-415.
  7. Efficacy analysis of the aprepitant-combined antiemetic prophylaxis for non-round cell soft-tissue sarcoma patients received adriamycin and ifosfamide therapy.
    Medicine (Baltimore). 2016;95:e5460.
  8. Retrospective analysis of cardiovascular diseases related to chemotherapies for advanced solid tumor patients.
    Anticancer Drugs. 2016;27:891-8.
  9. Efficacy and safety analysis of chemotherapy for advanced colitis-associated colorectal cancer in Japan.
    Anticancer Drugs. 2016;27:457-63.
  10. Efficacy and Safety of TAS-102 in Clinical Practice of Salvage Chemotherapy for Metastatic Colorectal Cancer.
    Anticancer Res. 2016;36:1959-66.
  11. Amrubicin monotherapy for patients with extrapulmonary neuroendocrine carcinoma after platinum-based chemotherapy.
    Cancer Chemother Pharmacol. 2015;75:829-35.
  12. Reduced dose of salvage-line regorafenib monotherapy for metastatic colorectal cancer in Japan.
    Anticancer Res. 2015;35:371-7.
  13. Analysis of adverse events of bevacizumab-containing systemic chemotherapy for metastatic colorectal cancer in Japan.
    Anticancer Res. 2014;34:2035-40.
  14. Efficacy and safety of an increased-dose of dexamethasone in patients receiving fosaprepitant chemotherapy in Japan.
    Asian Pac J Cancer Prev. 2014;15:461-5.
  15. Pemetrexed combined with platinum-based chemotherapy for advanced malignant peritoneal mesothelioma: retrospective analysis of six cases.
    Anticancer Res. 2014;34:215-20.
  16. Phase I study of bevacizumab combined with irinotecan and S-1 as second-line chemotherapy in patients with advanced colorectal cancer.
    Cancer Chemother Pharmacol. 2013;71:29-34.

基礎研究

本邦では、およそ2人に1人ががんになる時代となっています(生涯がん罹患リスク 男性62%、女性46%)。多くのがんでは早期に発見された場合は手術により治癒が期待できますが、切除不能あるいは再発の進行期悪性腫瘍についての治療成績は満足のいくものではなく、生涯でがんで死亡する確率(生涯がん死亡リスク)は男性25%、女性16%と報告されています(国立がん研究センター 2016年データから)。これら進行期悪性腫瘍に対して、従来の殺細胞性抗がん剤に加えて様々な新しい分子標的薬あるいは免疫チェックポイント阻害剤が開発されております。その結果進行期悪性腫瘍の生存期間は年々延長していますが、いまだ治癒を得ることはできません。

当研究室ではこのような進行期悪性腫瘍、特に大腸がんや胃がんといった消化器がんを主な対象に更なる治療成績の向上を目指して、基礎研究を行っております。現在の研究の4つの大きな柱は、1.がん幹細胞性を規定するメカニズムの解析 2.In vitro胃印環細胞癌発癌モデルの構築・新規治療ターゲットの同定 3.腹膜播種や胸膜播種の病態形成メカニズムの解析 4.免疫チェックポイント阻害剤の治療効果予測因子 であり、これらの研究を通してがんの治療成績向上につなげたいと考えています。

1、がん幹細胞を標的とした治療法の開発

強力な化学療法によりがんが縮小し一見消失したようにみえても、がんは再び増大してきます。これは化学療法によっても「がん幹細胞」が根絶できないためと考えられています。がん組織の中には少数のがん幹細胞が存在し、これが自己複製および非がん幹細胞へ分裂しながら癌を形成します(図1)。このがん幹細胞は、ニッチと呼ばれる周囲の細胞の助けにより、細胞増殖の静止期に止まり、抗がん剤耐性を示します。そのため化学療法後に、生き残ったがん幹細胞を基に再びがん細胞が増殖するのです。従って癌幹細胞の生物学的特性を解明して、がん幹細胞を根絶する治療法を確立する必要があります。

現在までにがん幹細胞が同定されている腫瘍としては、急性骨髄性白血病をはじめとして、乳がん、脳腫瘍、大腸がんなどがあります。実験的には免疫不全マウスにおいて造腫瘍能、自己複製能を持つ細胞ががん幹細胞とされており、これらのがん幹細胞は、細胞表面に発現している蛋白(マーカー抗原)を指標として同定されています。癌を形成している細胞の内のわずか0.2~1%ががん幹細胞であるため、生きたがん幹細胞の回収は簡単ではなく、未だその生物学的特性の詳細は明らかにはなっていません。

私たちの研究の目的は、消化器がんの組織中に存在するがん幹細胞を同定し、その生物学的特性を解析することです。特に近年エピジェネティックスががんの可塑性に関与することがわかってきており、大腸癌がん幹細胞におけるDNAメチル化酵素やmRNAの脱メチル化に関連するエピトランスクリプト―ムの機能解析を行い、メチル化や脱メチル化の異常ががん幹細胞性へ及ぼす影響の検討を行っています。

2、In vitro胃印環細胞がん発がんモデルの構築・新規治療ターゲットの同定

当研究室の有山はコロンビア大学留学中胃印環細胞がん発がんモデルマウスの作製に携わり、マウス胃組織幹細胞の同定並びに印環細胞がんが胃組織幹細胞に由来することを報告した(Cancer Cell, 2016)。その結果を受けて当研究室では現在ヒト胃印環細胞がんのin vitro発がんモデルを構築し、新規治療ターゲットの同定を試みている。具体的には当院臨床・腫瘍外科並びに先端医工学診療部の協力を得て、同科にて胃切除術を受けられる患者さんの同意のもと、切除検体の一部を採取し、胃組織幹細胞の培養を行っている。

この培養した胃組織幹細胞において細胞間接着因子であるE-カドヘリンをノックアウトし、印環細胞がんを培養dish上で作成することを試みている。この培養系を確立することで印環細胞がんに対する新規治療ターゲットの同定が可能となり、また新規薬剤の印環細胞がんに対する感受性を調べることが可能となる。

また胃粘膜は表層粘液細胞、頚部粘液細胞、壁細胞、主細胞、内分泌細胞など多彩な細胞で構築されているが、特に壁細胞への分化の過程はよくわかっておらず、胃組織幹細胞から各種分化細胞への分化のメカニズムを解析し再生医療へ貢献したい。

(参考文献)

Hayakawa Y*, Ariyama H*, Stancikova J, Sakitani K, Asfaha S, Renz BW, Dubeykovskaya ZA, Shibata W, Wang H, Westphalen CB, Chen X, Takemoto Y, Kim W, Khurana SS, Tailor Y, Nagar K, Tomita H, Hara A, Sepulveda AR, Setlik W, Gershon MD, Saha S, Ding L, Shen Z, Fox JG, Friedman RA, Konieczny SF, Worthley DL, Korinek V, Wang TC. (*:equally contributed authors)

Mist1 Expressing Gastric Stem Cells Maintain the Normal and Neoplastic Gastric Epithelium and Are Supported by a Perivascular Stem Cell Niche. Cancer Cell. 2015;28(6):800-14.

3、腹膜播種や胸膜播種の病態形成メカニズムの解析

腹膜播種や胸膜播種は大量腹水貯留によるQOLの低下や腸閉塞など重篤な合併症をきたす予後不良な病態である。腹水中には多数のマクロファージや線維芽細胞が存在することが報告されている。マクロファージや線維芽細胞はがん組織中にも検出され、これらがん組織中に存在するマクロファージや線維芽細胞は腫瘍関連マクロファージ(TAM)あるいはがん関連線維芽細胞(CAF)と呼ばれ、がん細胞が増殖するのに適した微小環境を構築するニッチとして機能することが知られている。我々は腹膜播種予防のため、この腹水中のマクロファージや線維芽細胞とがん細胞の腹膜播種形成メカニズムとの関連を研究している。

4、免疫チェックポイント阻害剤の治療効果予測因子

がんの分子生物学的研究の進歩に伴い、ヒト上皮成長因子受容体変異に対するチロシンキナーゼ阻害剤やALK融合遺伝子に対するクリゾチニブなどいわゆるドライバー変異と呼ばれる遺伝子変異をもつがんに対し特定の分子標的治療薬が高い治療効果を示すことが確認された。これまでのがん治療は原発巣に基づいて治療レジメンが決定されていたが、今後は遺伝子変異に基づく治療いわゆる個別化医療(Precision Medicine)がますます進んでいくものと考えられる。

がん細胞はPD-1、PD-L1などの分子を介して癌免疫から逃避していることがわかり、これらのPD-1やPD-L1をターゲットとした免疫チェックポイント阻害療法が近年多くのがん種で導入されるようになった。肺がんではPD-L1の発現が低いと治療効果が劣ることが報告され、PD-L1が治療効果予測因子となっているが、その他のがん種に関しては免疫チェックポイント阻害剤の効果に関わる因子の解析は十分でない。我々の研究室ではニボルマブで治療を受けている患者さんの血液を採取し、治療効果・抵抗性に関わるリンパ球の解析やサイトカインの測定を行い、免疫チェックポイント阻害剤の治療効果予測因子について検討を行っている。