診療グループ

  1. TOP
  2. 診療グループ
  3. 膠原病グループとは
  4. 基礎研究・臨床研究

膠原病グループ

研究

リウマチ性疾患の病態形成における自然リンパ球の役割の解明

自然リンパ球(Innate lymphoid cell; ILC)は、最近新たに確立された細胞系列です。リンパ球系共通前駆細胞(common lymphoid progenitor; CLP)を起源に持つリンパ球系細胞ですが、T細胞受容体やB細胞受容体は発現しておらず抗原特異性を持っていません。ILC1,2,3に分類され、それぞれがヘルパーT細胞のTh1, Th2, Th17に類似した遺伝子発現パターンとサイトカイン産生能を示します(図)。定常状態では感染防御や組織修復などの役割を有していますが、病的状態で不適切な活性化を受けると、クローン病や乾癬性関節炎、脊椎関節炎などを発症・悪化させるのではないかと考えられています。

我々のグループでは、ヒト及びマウスにおいて全てのILCを同時に評価できる方法を確立しました。これを用い、関節炎モデルマウス、腸炎モデルマウス、喘息モデルマウスにおけるILCの役割を解析しています。同時に、関節リウマチや脊椎関節炎の患者様から頂いた検体を用い、病気の発症や悪化にILCがどのように関わっているのかを研究しています。これらにより、自己免疫疾患の発症過程の詳細が明らかになり、治療の進歩つながるように努力しています。

強皮症の病態形成におけるマスト細胞の役割

強皮症は未だ病態の解明が十分でなく膠原病の中でも有効な治療法の乏しい難治性疾患です。その一つの臨床的特徴として、硬化した皮膚病変部に(アレルギー疾患との関わりで有名な)マスト細胞が増加していることが知られていますがその理由は明らかではありません。一方、エンドセリン-1(ET-1)やアンギオテンシン II (AT II)などの生理活性物質が強皮症の病態形成に関与することが多くの研究で示されており、これらペプチドの産生・分解にはマスト細胞由来のプロテアーゼが重要な役割を果たしていることが知られています。我々は、マスト細胞が自身のプロテアーゼにより強皮症病態に関わる種々の生理活性物質の産生・分解調節を行うことで強皮症の病態形成に関与しているとの仮説のもとに、マスト細胞欠損やプロテアーゼ欠損マウスを用いた強皮症モデルの解析を行うことで強皮症病態形成におけるマスト細胞の役割を明らかにすることを目的に研究を行っています。

我々はこれまでの研究成果からマスト細胞由来プロテアーゼの一つであるchymase(キマーゼ)に注目して解析を進めています。このchymaseは生理活性ペプチドであるET-1やAT IIの産生、vasoactive intestinal polypeptide (VIP)の分解に関与することが示されており、マスト細胞は(少なくとも一部は)chymaseを介した機序によりET-1、AT IIなど向線維化・血管収縮物質の産生を増加、さらにVIPなどの血管拡張物質を減少させることで線維化・肺高血圧症の病態に寄与するといった機序を想定しています(図)。過剰なchymase産生あるいは機能亢進が強皮症病態への進展・増悪因子であることが示唆されれば、今後chymaseを標的とした治療が強皮症治療の候補となりうることも期待されます。

(参考文献)

Akahoshi M, et al. Mast cell chymase reduces the toxicity of Gila monster venom, scorpion venom, and vasoactive intestinal polypeptide in mice. J Clin Invest 121: 4180-4191, 2011.

自己免疫疾患の病態形成におけるCD226陽性T細胞の機能解析

T細胞は自己免疫疾患の病態形成に必須な免疫担当細胞の一つです。様々な観点から研究が行われていますが、我々はT細胞膜表面に発現したCD226(DNAM-1)に着目して研究を進めています。

CD226はNK細胞の活性化レセプターとして同定された共刺激分子・接着分子ですが、T細胞にも恒常的に発現し、細胞傷害活性や分化において重要な役割を担っています。CD226は抗原提示細胞や血管内皮細胞に発現しているCD112やCD155をリガンドとし、抑制性レセプターであるTIGITと共同して免疫活性を調整しています。この関係はすでに自己免疫疾患で治療ターゲットとなっているCD80/CD86-CD28/CTLA-4の相互作用と同様であり、CD112/CD155-CD226/TIGITについても重要性が示唆されます。また近年のゲノムワイド関連解析の結果、CD226は関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、強皮症、1型糖尿病、多発性硬化症など多くの自己免疫疾患に共通した疾患感受性遺伝子であることが報告されています。

これまでの研究で我々は、強皮症においてCD226高発現CD8陽性T細胞が向線維化サイトカインIL-13の産生および血管内皮細胞傷害を介して病態に関与し治療標的となり得ることを明らかにしました。
現在は

  1. CD226陽性T細胞による血管内皮細胞障害の詳細なメカニズムの解明
  2. 強皮症以外の自己免疫疾患におけるCD226陽性T細胞の機能異常
  3. バイオマーカーとしてのCD226の役割

を中心に研究を行っており、自己免疫疾患の病態解明や新規治療開発につなげたいと考えています。

(参考文献)

Ayano M, et al. Increased CD226 Expression on CD8+ T Cells Is Associated with Upregulated Cytokine Production and Endothelial Cell Injury in Patients with Systemic Sclerosis. J Immunol 195(3):892-900,2015.

自己免疫疾患におけるDNA分解酵素(DNase1L3)の役割の解明

全身性エリテマトーデス(SLE)は自己抗体の産生を特徴とする全身性の自己免疫の代表です。特に本疾患では自己の核酸やその関連蛋白が自己抗原となり、抗2本鎖DNA抗体や抗RNP抗体等が産生され、自己抗体が病態形成に関与していると考えられています。特に抗2本鎖DNA抗体はその力価が病勢とも相関することから、日常診療で活動性の指標として用いられています。

Deoxynuclease 1-like-3 (DNase1L3)はDNase1 family分子の一つであり、アポトーシス細胞,ネクローシス細胞の核内でDNAの断片化に寄与しています。SLEのモデルマウスや常染色体劣性遺伝形式を示すSLEの家系でDNase1L3の機能欠失型変異が報告されており、DNase1L3はSLEの発症抑制に必要不可欠な蛋白と考えられます。機能欠失によるSLE発症の機序は不明な点が多く、我々はヒト免疫担当細胞におけるDNase1L3の発現と機能の解析を行っています。DNase1L3は白血球全般に発現が認められ、定常状態では形質細胞様樹状細胞で最も高い発現がみられます。刺激前後での発現量変化を解析したところ、単球、単球由来樹状細胞、単球由来マクロファージにおいて、IL-4刺激でDNase1L3の著明な発現亢進を認めました。 DNase1L3蛋白は主として細胞質に分布しており、細胞外にも分泌されることが明らかとなりました。分泌されたDNase1L3蛋白のnaked DNAに対するDNase活性は維持されており、さらにリン脂質-DNA複合体、タンパク-DNA複合体といったDNase1抵抗性のDNAに対してもDNase活性を示しました。DNase1L3は免疫担当細胞から分泌され、細胞外に放出されたDNAの処理を行い、組織のホメオスターシスを維持する役割を担っていると考えられます。