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感染症グループ

基礎研究

当教室では、開講当時から感染症の研究に従事しています。ワイル病の病原体の発見に始まり、古くからワイル、インフルエンザ、デングといった研究室が存在し、それぞれの研究が行われてきました。その後、易感染宿主に対する感染症、薬剤耐性菌感染症、医療関連感染症、真菌感染症など多岐にわたり研究を行っています。以下には、その中から、最近のものを記載しています。

(1)細菌感染症

当グループでは、MRSAや緑膿菌など、医療関連感染で問題となる感染微生物を中心に院内の検出状況を把握し、パルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)やPCR-based ORF Typing(POT法)といった分子疫学解析を用いて菌株の解析を行っています。菌株の情報と臨床情報をもとに、感染源の特定や感染経路の究明を行い、早期に院内伝播を把握できるよう努めています。

そのほか、易感染宿主を中心に敗血症や蜂窩織炎を起こす原因菌として近年関心が高まっているHelicobacter cinaedi(図1,2)についての研究も行っています。当院では2013年、血液培養ボトル・自動分析装置の変更に伴って、血液培養からのH. cinaedi分離率が著明に増加しました。そこで、当グループは、試験管内において異なる菌量のH. cinaedi菌血症モデルを作成し、変更前後の血液培養ボトル・自動分析装置でボトル陽性感度の比較研究を行いました。その結果、どちらの血液培養ボトルでも菌の検出感度は同じでしたが、自動分析装置によってボトル陽性シグナルに違いがあることを証明しました。(参考文献1)。

(2)真菌感染症

近年目覚ましい医療技術の進歩に伴い様々な疾患が治療可能となった一方で、易感染宿主の増加に伴う真菌感染症は増加の一途を辿っています。深在性真菌症の分野では特にアスペルギルス感染症およびカンジダ感染症の制御が重要です。

これまで当グループでは致死率の高い侵襲性肺アスペルギルス感染症に関して、マウスを用いた肺感染モデルを確立しました(図3)。抗菌薬の併用療法に関するエビデンスは未だ確立したものはありませんが、このモデルを用いて抗真菌薬の併用効果を検討し、その有効性を報告しました(図4)。カンジダ感染症に関しては院内のカンジダ属菌の分離頻度や抗真菌薬の使用状況を調査しています。また、カテーテル血流感染症に関して、治療抵抗性に起因するカンジダバイオフィルムの研究なども行っています。

近年は米国のDavid Perlin研究室とカンジダ属菌に関するエキノキャンディン系抗真菌薬の耐性頻度などの共同研究も行っております。(参考文献2)

(3)インフルエンザウイルス流行株における全ゲノム配列決定

インフルエンザウイルスは、Hemaglutinin(HA)上の抗原決定領域における抗原連続変異(antigenic drift)によるヒトの免疫系からのエスケープのため、頻繁なワクチン株の変更を余儀なくされていますが、ウイルスが淘汰されずに生き残るメカニズムの詳細は分かっていません。我々は次世代シーケンサー(NGS)にて毎年の流行株塩基配列データを迅速かつ大量に収集し、HA配列のみでなく全ゲノム配列の塩基/アミノ酸レベルの変異導入やSingle nucleotide polymorphism(SNP)導入部位について詳細な検討を進めています。これらの研究により、インフルエンザウイルスにおけるヒトの免疫系やワクチン接種による免疫圧からの逃避機序のみでなく、ヒトに感染後生体内で生き残ることができる仕組みの解明に寄与できるものと考えています。図5は、インフルエンザA/H3N2流行株では、主要な抗原決定領域におけるアミノ酸変異数及び変異率はワクチン接種者からの分離株が未接種者よりも有意に高いことを示しています。これらの変異の一部は免疫圧から逃れるための抗原部位として重要である可能性があります(参考文献3)。

(参考文献)
  1. Miyake N, et al. A dramatic increase in the positive blood culture rates of Helicobacter cinaedi: the evidence of differential detection abilities between the Bactec and BacT/Alert systems. Diagn Microbiol Infect Dis. 2015; 83: 232-3.
  2. Nagasaki Y, et al. Combination therapy with micafungin and amphotericin B for invasive pulmonary aspergillosis in an immunocompromised mouse model. J antimicrobe Chemother.2009;64:379-82.
  3. Chong Y, et al. Effect of seasonal vaccination on the selection of influenza A/H3N2 epidemic variants. Vaccine. 2017; 35: 255-263.

臨床研究

感染症領域の臨床分野の研究としては、感染症疾患の疫学や治療に関するもの、細菌をはじめとしたサーベイランスなどがあります。これらの研究に、グローバル感染症センター、検査部、その他、病院全体に協力する形で参加しています。大別すると以下のようになります。

  1. 感染症治療に関する多施設共同臨床試験への参加
  2. 国公立大学附属病院感染対策協議会の行う臨床研究
  3. 当院および福岡地区でのサーベイランス・疫学解析  

以下にその一部を紹介いたします。

(1)感染症治療に関する多施設共同臨床試験への参加

以下に現在参加している主要な臨床試験を示します。

 「マラリアに対するキニーネ注射薬の薬効・安全性評価研究」

重症マラリアに対して、キニーネ注射薬は世界的な標準治療ですが、日本では未認可です。キニーネ注射薬が国内で承認されることを目指し、この試験に参加しています。

 「トキソプラズマ症に対するピリメタミン・スルファジアジン・ホリナート併用療法の効果・安全性評価研究」

トキソプラズマによる各種疾患に対して、世界的に標準的な併用療法が国内では認可されていません。国内で承認されることを目指し、本試験に参加しています。

「重症熱性血小板減少症候群を対象としたファビピラビルの臨床第Ⅲ相試験 -多施設共同、オープンラベル、既存対象比較試験-」

重症熱性血小板減少症候群(SFTS)は、ダニ媒介の感染症ですが、治療薬がない状況ですが、動物実験でファビピラビルの有用性が認められています。致死的疾患の予後改善のために、多施設共同の治験に参加しています。

(2)国公立大学附属病院感染対策協議会の行う臨床研究

グローバル感染症センターに協力する形で、以下の臨床研究に参加しています。

  • カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)感染症に関する臨床的及び微生物学的研究 
  • 大学病院における周術期抗菌薬使用の実態調査 

(3)当院および福岡地区でのサーベイランス・疫学解析

感染症診療を行う上で、自施設や近隣地域でどのような感染症が多く、原因微生物にどのような特徴があるかを把握しておくことは重要です。また、感染制御の点からも、院内の薬剤耐性菌が増加していないか、または同じ病棟や診療科の中で耐性菌が伝播していないか、常に注意する必要があります。当グループでは、院内または近隣施設と連携しサーベイランスを積極的に行っています。

薬剤耐性菌に関する当院・福岡地区サーベイランス

当グループはグローバル感染症センター、検査部と協力し、耐性菌の分離状況のサーベイランスを行っています。図1は当院のカルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)の分離状況を示しています。

疫学解析

同じ病棟内で通常に比べて耐性菌の検出が多い場合など、院内での水平伝播が疑われる場合には、検査部と連携し、早い段階で疫学解析を行います。
図2はMRSAに対しPOT法というマルチプレックスPCRを使用したタイピング法で疫学解析を行ったものです。早期にアウトブレイクを疑い疫学解析を行うことで、臨床背景とあわせ、感染経路の推定や伝播の拡大防止に役立てます。

その他として、以下の研究も行っています。

肝膿瘍の原因菌と治療に関するサーベイランス

肝膿瘍の主な原因菌は腸内細菌と考えられ、その耐性率なども含めた分離状況や治療方法を調査することで、今後のAMR(Antimicrobial Resistance)対策にも結び付くものと考えております。当科の肝臓研究室の医師が福岡県内の主要な市中病院に勤務しているため、そのネットワークを利用して本研究を進めております。

Asian Network for Surveillance of Resistant Pathogens(ANSORP)でのサーベイランス

アジア地区は、耐性菌が多い地区でもあります。ネットワークを通して、サーベイランス事業に参加しています。